AI CASE
AI人材育成の進め方——7つの公表例で見る「研修のあと」の設計

※ 本記事で紹介する事例は、各社が公表している情報をもとにまとめたものです。当社が支援した事例ではありません。 当社の実績については記事末尾をご覧ください。
「AI研修をやりました。受けた人の満足度も悪くありません。でも、半年たって職場を見ると、使っている人はほとんど変わっていないのです」
原因は研修の出来より、研修のあとに何も置いていないことにある場合が多いと、私たちは考えています。
そこで今回は、AI人材の育成を「仕組み」として公表している企業と自治体の記録を7つ集め、どんな段階を置き、研修のあとに何を用意したかを並べました。
この記事の要点
- リコーとキリンは、育成の段階を「受講したか」ではなく「認定に通ったか」で区切っています。ダイキンとSMBCグループは、自分の業務の課題を研修の題材にしています
- 研修とは別に、事例を発表する場や、周りを手伝う役割を置いています
- 育成の人数や認定の取得率を、経営の指標や人事の枠組みにつないでいる例があります
7つの公表例
紹介する取り組みの多くは、生成AIに限らない「DX人材」の育成です。
キリンホールディングス(白帯・黒帯・師範の3段階)
2021年7月に、社内の育成プログラム「キリンDX道場」を始めました。初級の「白帯」、中級の「黒帯」、上級の「師範」の3コースで、各コースは講座を受けたあと、認定試験に合格すると完了になります。
開校時のリリースは、デジタルのスキルが特定の部門に偏り、「現場社員に定着していない状況」だったと書いています。初回は150人の計画に対し、応募は750人を超えました。
出典:DX人材育成プログラム「キリンDX道場」を7月から開校(2021年7月9日) — キリンホールディングス
現在の公式サイトによると、メイン講座の受講生は2025年末時点の累計で約5,100人です。短時間でAI活用を学ぶ実践講座も新設され、2025年には3,500回以上受講されました。
研修のあとの場として、2023年から「KIRIN DX AWARD」を開いています。2024年の表彰式には、会場とオンラインを合わせて700名以上が参加し、受賞した事例は社内で横展開されているとのことです。同社は「DXの取り組みは、必ずしも成功ばかりではありません」とも書いています。
リコー(ブロンズからプラチナまでの4段階の認定)
業務プロセスのデジタル化を担う人材に、ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナの4段階の認定を設けています。認定の基準は、知識の習得に加えて、実践による経験・実績・成果です。ブロンズは全社員の取得を目指しており、2024年度には98%の社員がブロンズ認定を終えました。
その上のシルバーは、実践して生産性の向上を実現できる段階です。同社はこの取得率をESG目標に掲げています。
研修のあとの場として、事例の発表や表彰を行う「オープンカレッジ」と「アイディアソン」を開いています。現場に任せてデジタル化を進めた時期には「アプリの乱立や属人化などの課題もあった」とし、その反省も生かして、社内の専門組織(CoE)がセキュリティ対策やガバナンスを担う形にしています。
出典:現場起点のプロセスDXで実現する"はたらく"に歓びを(2025年2月27日) — リコー
花王(全社員のアセスメントから始める)
2023年11月に、グループ全社員を対象にした「DXアドベンチャープログラム」を始めました。3つのレイヤー、5つのレベルで構成し、「全員に一律のメニューでなく」、まず全社員にスキルのアセスメントを行ってから、一人ひとりに合わせた学習を出す形です。
育成の人数は、2027年度末までの累計で、全社DXリーダー150人、部門DX推進者300人、シチズン・ディベロッパー(現場で自らツールを作る人)2,000人を計画しています。シチズン・ディベロッパーは、発表時点で約1,000人が各部門で活躍しているとしています。
出典:花王、グループ全社員に「DXアドベンチャープログラム」を開始(2023年11月16日) — 花王
2024年6月の説明会では、広がり方についても答えています。担当部門の社員が社内の共有ツールに社員が集まる場所を作り、そこから「エバンジェリストが出てきて」、挑戦する人を手伝いながら全社に広がったという説明です。
出典:花王DX戦略説明会 質疑応答要旨(2024年6月20日) — 花王
三井住友フィナンシャルグループ(全員向けの土台と、業務を題材にした実践)
全従業員向けに約5時間のeラーニングを用意し、営業店でのワークショップや社内ラジオ放送で受講を呼びかけました。2020〜2022年の中期経営計画の期間に、目標80%に対して受講率90%に達しています。
その上の段として、ITで業務を変える企画を立てる「案件企画人材」を育てています。研修の題材は「実際に自分たちが日々の業務で困っていること」です。約700人から1,000人規模へ増やす目標に対し、2025年7月時点で約270人が研修で新たにスキルを身につけました。現状について、同社は「外部のコンサルティング会社の力に頼らざるを得ない状況」と書いています。
出典:金融×DXの未来は"人"にあり。SMBCグループが実践する現場主導の育成と採用(2025年7月24日) — 三井住友フィナンシャルグループ DX-link
生成AIについては、グループの日本総合研究所が推進チーム「LLM-CoE」を置き、14名から31名の体制に広げました。勉強会には延べ800名超が参加しています。全社員へのリテラシー教育、選抜者向けの開発研修、実務でのOJTを段階として組み、既存のキャリアの枠組みに生成AIのスキルを組み込むとしています。
出典:生成AI活用の可能性を最大化。「LLM-CoE」の使命とインパクト(2026年1月8日) — 三井住友フィナンシャルグループ DX-link
SOMPOホールディングス(管理職以上の受講を必須に)
2025年12月に、国内グループ会社の社員約30,000人を対象に、2026年1月からAIエージェントを実証実験として導入すると発表しました。同時に、任意参加だった「生成AIリーダーシップ研修」を組み直し、管理職以上の受講を必須にするとしています。
出典:国内グループ会社社員約30,000人を対象にAIエージェント導入開始(2025年12月26日) — SOMPOホールディングス
研修のあとについては、現場の社員が自らAIエージェントを作る取り組みを全社規模で進め、グループ全体でアイデアソンを開いたとしています。受講者数や修了者数は公表されていません。
出典:主役は現場、AI活用のカタチ(2026年3月18日) — SOMPOホールディングス Sompoストーリーズ
ダイキン工業(社内大学で自部門の課題を解く)
2017年12月に、社内大学「ダイキン情報技術大学」を設立しました。新入社員を毎年100名規模で受け入れ、2年間の専門教育を行っています。既存社員向けの「AI活用人材」のコースは、講義のあとに「自部門、自業務の業務課題を解決する」プログラムになっています。
育成人数は、2023年度末までに1,500名の計画を達成し、2025年度末までの目標を2,000名としています。研修を2年間で終わらせず、その先も中核の人材に育つよう、カリキュラムの質を上げる予定だとも書いています。
出典:デジタル時代における製造業の変革~ダイキン情報技術大学におけるAI人材の育成と卒業生の活躍~(2025年1月15日) — ダイキン工業
静岡県(全職員を「使う人」にする段階)
静岡県では、知事自らがCAIO(AI活用の最高責任者)に就いています。2026年度は、4月中に全職員へAIのアカウントを配り、7月までに全職員を「AIユーザー化」する方針です。並行して、補助金の交付業務などで導入の実証を行い、AI活用による負担軽減4万時間を今年度中に達成する目標を置いています。
副知事は、職員のAI活用率に「温度差がある」と書いています。そのうえで、職員自らが負担の改善を「腑に落ちる」形で実感することが大事であり、「『やらされている』改革は持続しません」としています。
出典:第4回『静岡県の目指す「AI活用」とは?』(2026年5月15日更新) — 静岡県
7つの例に共通していたこと
1. 段階を「認定」で区切り、条件に業務での実践を入れています
リコーは認定の基準に実践の経験・実績・成果を入れ、キリンは各コースを認定試験の合格で完了とする形です。ダイキンは自部門の業務課題、SMBCグループは日々の業務で困っていることを研修の題材にしています。4社とも、研修を受けた時点ではなく、試験や業務での実践を通った時点を一段上がった印にしていると読めます。
経済産業省の資料も同じ方向を示しています。個人の作業から始める使い方は「効果に限りがあり、業務へ定着しづらい」とし、業務への組み込みを起点にすることを勧めています。
2. 研修の外に「場」と「役割」を置いています
キリンのアワード、リコーのオープンカレッジとアイディアソン、SOMPOのアイデアソンは、学んだ人が成果を見せる場です。花王のエバンジェリストやSMBCグループの推進チームは、周りを手伝う役割です。SOMPOが管理職以上を必須にするとしたことも、職場で使うかどうかを決める立場の人を先に巻き込む設計だと考えます。
経済産業省の資料は、学び続ける条件として「学んだことを役立てる場があることや評価を得ること」を挙げています。
出典:生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024(2024年6月28日) — 経済産業省
3. 育成を経営の指標や人事の枠組みにつないでいます
キリンは育成人数をグループのDXの共通指標に入れ、リコーはシルバー認定の取得率をESG目標にしています。SMBCグループは、キャリアの枠組みに生成AIのスキルを組み込むとしています。いずれも、研修を担当部署の行事で終わらせない仕掛けです。
数字を読むときの注意
実績と目標が混ざっています。 ダイキンの1,500名は達成した実績で、2,000名は目標です。花王の150人・300人・2,000人は2027年度末までの計画です。キリンが2021年に掲げた「2024年までに1,500人」を達成したかどうかは、今回確認した資料には書かれていませんでした。
数えているものが違います。 キリンの約5,100人は受講生の累計で、認定に通った人の数ではありません。3,500回は受講の回数で、人数ではありません。SMBCグループの90%は全従業員向け講座の受講率で、業務で使っている人の割合ではありません。リコーの98%は分母が明記されていません。
生成AIに限った数字ではありません。 キリン・リコー・花王・SMBCグループの数字の多くは、DX人材全体の育成のものです。生成AIの研修だけの成果として読むことはできません。
自ら公表した記録です。 うまくいかずに公表されなかった育成の取り組みは、ここには含まれていません。
自社ではどう読むか
7つの例と経済産業省の資料から、私たちはAI人材の育成を設計するときに、次の3つを先に決めることをおすすめします。
1つめは、段階の区切りを何にするかです。 「研修を受けた」を区切りにすると、受講者数は増えても職場は変わりにくくなります。「自分の業務で一つ使えた」「それを人に見せた」のように、業務での実践を区切りにできるかを考えてください。
2つめは、研修のあとに何を置くかです。 事例を発表する場、困ったときに聞ける人、管理職が先に使う機会のどれかを、研修と同時に用意しておくことをおすすめします。手伝う人が社内から自然に出てくるまでには時間がかかるため、最初は推進役を名指しで置くほうが現実的です。
3つめは、誰がどの数字を追うかです。 受講者数だけを人事が追う形では、研修のあとの変化が見えません。認定の取得率や、業務で使っている人の割合を、経営の会議で見る数字に入れられるかどうかが分かれ目になると考えます。
静岡県の副知事が書いた「『やらされている』改革は持続しません」という一文は、どの段階の設計にも当てはまると私たちは読んでいます。
※ 記載の数値は各資料の公表時点のものです。
※ 本記事で紹介する事例は、各社が公表している情報をもとにまとめたものです。当社が支援した事例ではありません。
研修を受けたあとに、業務で使われ続けるか。育成の段階の設計から、社内で実践を広げる仕組みづくりまで、レベルゼロが伴走します。
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