AI CASE
生成AIを社内で使っている企業9社——公表データで見る「何に使い、どれだけ減ったか」

※ 本記事で紹介する事例は、各社が公表している情報をもとにまとめたものです。当社が支援した事例ではありません。 当社の実績については記事末尾をご覧ください。
「他の会社は、生成AIを実際のところ何に使っているのだろうか」
この問いは、私たちがご相談をいただくときに、いちばん多く聞かれるものです。ツールの名前や機能の話ではなく、同じくらいの規模の会社が、どの業務に、どうやって入れているのか。そこを知りたいという声をよくいただきます。
そこで、各社が自分たちで公表している情報だけを集めて、9社ぶんを並べてみました。ニュース記事や取材記事ではなく、その会社自身が出している発表・統合報告書・公式サイトの記述をもとにしています。
読んでいただくとわかりますが、公表されている数字のほとんどは「時間」です。売上が何%伸びた、という話はほとんど出てきません。ここには理由があると考えていますので、記事の後半で触れます。
この記事の要点
- 生成AIを社内で使っている9社について、各社が公表している内容をまとめました
- 出てくる数字は、年間78.8万時間から月間1,600時間まで幅があります
- 「削減しました」と「削減をめざします」は別の話です。この記事では言葉を分けて書いています
- 9社に共通していたのは3つでした。①まず全社に配る ②業務を一つ決める ③配っただけでは使われない
※ 本記事で紹介する事例は、各社が公表している情報をもとにまとめたものです。当社が支援した事例ではありません。当社の実績については記事末尾をご覧ください。
9社が公表していること
パナソニック コネクト
社内向けの生成AI「ConnectAI」を運用しています。国内の全社員1万3400人が使える状態になっていて、一部の部署だけの試験導入ではありません。
2026年7月のプレスリリースで、2025年度の実績が公表されました。削減時間は78.8万時間。前の年の2倍で、総労働時間の3.4%にあたるとしています。
数字の中身も出ています。利用回数は361万回(前年の1.6倍)、1回あたりの削減時間は33分(前年の1.2倍)。そして月間ユニークユーザー率が61%で、前の年から12ポイント増えたとのことです。
9社のなかで、ここまで細かく公表しているのはこの会社だけです。特に「月に1回でも使った社員の割合が61%」という数え方は、自社の状況を測るときにそのまま使えます。
なお同社は、2030年に総労働時間の10%をAIで削減する目標も掲げています。3.4%から10%へ、という道筋です。
出典:パナソニック コネクト、AI活用で総労働時間の3.4%削減(2026年7月29日)/「ConnectAI」が変える働き方 — パナソニック コネクト
日清食品グループ
2023年4月、グループ専用の対話型AI「NISSIN AI-chat」を導入しました。グループの社員だけがアクセスできる形で、外部に情報が出ない作りになっています。ChatGPTが世に出てから、かなり早い時期の導入です。
この会社を最初に挙げたいと思ったのは、うまくいかなかった時期についても書いているからです。導入した当初は利用率が上がらず、「3割の壁」を感じた、と公表しています。
社内に配っても、社員の3割ほどしか使わない。この状態から先に進むために、デジタル化推進の部署が普及の活動に取り組んだ、という流れが書かれています。9社のなかで、いちばん参考になる部分だと考えます。
出典:VALUE REPORT 2025 — 日清食品グループ
サイバーエージェント
広告制作の全工程にAIを入れています。広告効果の予測から、デザイン、コピー、人物像の生成まで。制作の一部分ではなく、流れ全体にAIが関わっている点が他社と違います。
制作効率は従来の5倍以上、と公表しています。
同社は広告を事業としている会社なので、AIを入れる対象が本業そのものです。社内の間接業務を効率化する他社の事例とは、성質が少し違うと考えたほうがよさそうです。
三菱UFJ銀行
LayerXという会社と組んで、生成AIを業務に実装する取り組みを進めています。
公表されているのは、銀行全体で年間20万時間の業務量削減をめざすという内容です。すでに減ったという実績の発表ではなく、目標として掲げている数字になります。
銀行は、扱う情報の秘密性が高く、規制も多い業種です。そこで生成AIを業務に組み込めるなら、他の業種にも広がっていく。そういう文脈で語られているのが特徴です。
出典:LayerX社との連携による生成AIの業務実装 — 三菱UFJフィナンシャル・グループ
三菱UFJ信託銀行
同じグループですが、こちらは別会社の取り組みです。カサナレという会社と組んだプロジェクトで、年間6万5千時間の削減が公表されています。
もともと生成AIを使った社内業務の効率化には取り組んでいた、という前提も書かれています。ゼロからの導入ではなく、すでにあった取り組みを積み上げた結果の数字だと読めます。
出典:AIと金融はどう融合する — 三菱UFJイノベーション・パートナーズ(2025年10月2日)
KDDI
2つの数字を公表しています。
ひとつは、報告書を作成するアプリです。業務時間を約80%削減したとしています。月間およそ600件の問い合わせ履歴をもとに、お客さまのニーズを整理する使い方もあわせて紹介されています。
もうひとつは、カスタマーサポートでの年間2.4万時間の削減です。
報告書の作成という業務は、多くの会社にあります。しかも「誰が書いても同じ内容になるべきなのに、書く人によって時間が違う」という性質を持っています。ここから手をつけたのは、参考になる順番だと思います。
出典:ELYZA Works 社内先行活用 — KDDI Business(2025年9月17日)
LINEヤフー
RAGという技術を使った独自の業務ツールを開発しています。社内にある文書を検索して、その内容をもとにAIが答える仕組みです。
こちらも数字は2つあります。業務改善として年間70〜80万時間の削減を目指すという全社の目標。そして人事総務の領域で、月間およそ1,600時間以上の工数削減を見込むという部門の数字です。
どちらも、いまのところ見通しの数字になります。ただ、部門を絞った1,600時間という数え方は、自社に当てはめるときに使いやすいはずです。全社で何十万時間と言われるより、ひとつの部署で月にどれだけ、のほうが想像がつきます。
出典:LINEヤフー、人事総務領域での生成AI活用を本格化(2026年2月10日)
ベネッセ
2023年4月から社内で生成AIの利用を始めました。そして、社内で生成AIを使って得た知見をもとに、小学生向けのサービスを開発し、無償で提供しています。
社内の効率化で終わらせず、そこで覚えたことを商品にした例です。9社のなかでは、この会社だけが違う方向に進んでいます。
自社の業務で使い込んだからこそ、どういうときにAIが役に立って、どういうときに外すのかがわかる。その感覚が商品の設計に効いたのだと考えます。
出典:Benesse Report 2023 — ベネッセホールディングス
西日本旅客鉄道
社内の運営会議に出す資料を、事前に社内チャットへ投稿して、上司や関係者に確認してもらう。そういう運用がもともとありました。ここにAIを入れています。
結果として、資料レビューの前後のやり取りが約3分の1になったとされています。
この事例は、資料を作る時間そのものではなく、作ったあとのやり取りを減らしている点が特徴です。「これ、どういう意味?」「ここの数字は?」という往復が、実は時間を食っている。心当たりのある方は多いのではないでしょうか。
出典:西日本旅客鉄道株式会社様 導入事例 — KDDI Business
9社に共通していた3つのこと
1. まず全社に配っている
パナソニック コネクトは1万3400人、日清食品はグループ全体、LINEヤフーも全社です。9社とも、一部門の実験でとどめていません。
これは、けちけちしないほうがいい、という精神論ではないと思います。時間削減の数字は「1人あたりの削減時間 × 使っている人数」で決まるので、分母が小さいと、どれだけ効果があっても数字になりません。
もうひとつ、全社に配ると「使っていない人がいる」という状態が可視化されます。一部の詳しい人だけに配っていると、その人たちは当然使うので、うまくいっているように見えてしまいます。日清食品が書いている「3割の壁」も、全社に配ったからこそ見えた数字です。
2. 業務を一つ決めている
報告書の作成。問い合わせへの回答。会議資料のレビュー。人事総務の手続き。
数字が出ている会社は、どこも業務を名指ししています。「生産性を上げる」ではなく「報告書を書く時間を減らす」。この差は小さいようで、実際にはかなり大きいと考えています。
業務を名指しすると、3つのことが決まります。誰が使うのか。前と後でどう比べるのか。うまくいかなかったときに何を直すのか。名指ししないまま「AIを使って効率化しよう」と言うと、この3つが全部あいまいなままになります。
どの業務から始めるかについては、共通する条件がありそうです。9社の事例を見ると、人によって時間のばらつきが大きく、しかも毎日発生する業務が選ばれています。報告書も、問い合わせ対応も、資料のレビューもそうです。
3. 配っただけでは使われない
日清食品が書いている「3割の壁」は、同社だけの話ではないはずです。
ツールを配った翌月に、社員の3割しか触っていない。ここから先に進むには、社内で使い方を広める活動が必要になります。同社の場合は、デジタル化推進の部署がその役目を担いました。
ここで、パナソニック コネクトの数字がひとつの目安になります。同社の月間ユニークユーザー率は61%でした。月に1回でも使った社員が6割ということです。しかもこれは、前の年から12ポイント増やした結果の数字です。
3割から6割へ。この差を埋めるのに何年かかるか、という話だと考えます。
私たちがご相談を受けるときも、ここでつまずいている会社がほとんどです。ツールは契約した。アカウントも配った。しかし使う人が増えない。数字が出るまでにかかる時間は、ツールの性能ではなく、この期間の長さで決まります。
そして、この期間を短くする方法は、残念ながら自動化できません。誰かが社内を回って、それぞれの部署の仕事に合わせた使い方を一緒に考える。そういう地道な作業が要ります。
数字を読むときに、気をつけたい3つのこと
「削減しました」と「めざします」は違う
この記事では、言葉を分けて書きました。
すでに出ている実績は、パナソニック コネクトの78.8万時間と、三菱UFJ信託銀行の6万5千時間です。一方、三菱UFJ銀行の20万時間とLINEヤフーの70〜80万時間は、目標や見通しとして公表されている数字になります。
他社のまとめ記事を読むときは、ここを確かめてみてください。目標値と実績が同じ表に並んでいることが、けっこうあります。
時間はお金ではない
年間78.8万時間が減ったとしても、そのぶん人件費が減るわけではありません。
空いた時間で何をしたのか。そこまで公表している会社は、まだ多くありません。私たちも、ここは正直まだ答えを持っていません。ただ、社内でAI活用を説明するときに「時間が減ります」とだけ言うと、必ず「それで?」と返ってきます。空いた時間を何に使うのかまで決めておくほうが、話が進みやすいと思います。
規模が違えば、数字も違う
1万3400人の会社の78.8万時間を、1人あたりに割り戻すと年59時間です。月にすると5時間ほどになります。
こう書くと、急に現実的な数字に見えてこないでしょうか。月に5時間というのは、報告書を4〜5本ぶん早く終わらせる程度です。逆に言えば、それを全社員ぶん積み上げると78.8万時間になる、ということでもあります。
自社に当てはめるときは、必ず1人あたりに割り戻してみてください。100人の会社で、1人あたり月5時間なら、年間6,000時間です。この数字なら、社内で説明するときにも現実味が出ます。
自社ではどう読むか
9社を並べて見えてきたのは、効果の大きさよりも順番でした。
全社に配る。業務を一つ決める。使われない時期を越える。この3つを踏んだ会社が、時間の数字を出しています。
逆に言えば、ツールの選定は最初の仕事ではありません。どの業務を名指しするのか。誰が社内に広めるのか。使われないときに何をするのか。ここが決まっていない状態でツールだけ配ると、日清食品が書いている「3割の壁」の手前で止まってしまいます。
私たちがAI研修を設計するときも、最初にお聞きするのは「どの業務から始めますか」です。ツールの使い方を教えるだけの研修では、この壁を越えられないと考えているためです。
※ 本記事で紹介する事例は、各社が公表している情報をもとにまとめたものです。当社が支援した事例ではありません。
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