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Anthropicセキュリティ・ガバナンス

Anthropic「Enterprise Frontier Safeguards」——ログは自社のクラウドに、鍵も自社に。“消す”から“自分で持つ”へ

YOUR LOGS YOUR KEYS——盾の中にサーバーと鍵が収まり、両側のクラウドと回路でつながる青いイラスト

要点

  • Anthropicは2026年9月1日、Enterprise Frontier Safeguards(EFS)を発表した。AIの利用ログを顧客自身のクラウド(Amazon S3 / Azure Blob / Google Cloud Storage)に、顧客自身の暗号鍵で保存する方式
  • 不正利用の検知はAnthropicの自動監視が行うが、アラートは顧客に直接届き、中身を見るのは顧客側の担当者。Anthropicの社員が人手でレビューすることはない
  • 金融・医療・製造・通信・法律・小売・公共など100社超と共同設計。米大手銀行のCISOが集まるARCのメンバー8社、Comcast、KPMG、Mastercard、Salesforce、Visa、Snowflake、Stripeなどが参加
  • Anthropicは追加料金を取らない(クラウド側のストレージ費用のみ)。2026年秋から段階提供。移行までの間、対象顧客にはFable 5/5.1でゼロデータ保持を継続

何が新しいのか

これまで「企業の情報漏洩が心配」への標準的な答えはゼロデータ保持(ZDR)=ログを残さないでした。当ブログでも8月にOpenAIのZDR継続の話を取り上げています。

ところが、AIがエージェントとして自律的に動く段階に入って、ZDRには別の穴が見えてきました。残っていないログは、監視も監査もできないということです。

Anthropicの説明はここが率直です。高度な悪用は「1回のやり取り」では姿を見せない。複数のセッション、複数のアカウントにまたがって少しずつ進む。認証情報を盗まれた場合の異常な振る舞いも、時系列で突き合わせて初めて分かる。だから1件ずつ自動チェックして即座に捨てる方式では検知が成立しない——そのためAnthropicはFable 5から30日間のデータ保持を導入しました(企業データを学習に使わない方針は従来どおり)。

しかし規制業種の企業は、そもそもベンダーにデータを預けること自体が難しい。「取引先に通知が必要」「契約を巻き直す必要がある」「社内の保管・監査要件を満たせない」。安全のためのログ保持と、コンプライアンス上のデータ非預託が正面衝突する。EFSはこの板挟みへの構造的な答えです。

仕組み

3つの機能があり、いずれもオプトイン(必要なものだけ有効化)です。

1. 顧客保有ストレージ — 監視に使う利用データを、顧客自身のクラウドアカウントに置く。すでに信頼している環境の中に留まる 2. 顧客管理の暗号鍵(CMEK) — 鍵・アクセスポリシー・監査ログはすべて顧客側の管理下 3. 完全自動レビュー — Anthropicの自動監視が一定期間分のトラフィックを横断分析し、サイバー攻撃・生物兵器関連の能力開発の試み・認証情報の流出兆候などを検知。フラグは顧客に直接送られ、そこから先は顧客のチームが対応する

役割分担が明快です。Wells FargoのCISOはこう述べています——ログはWells管理の環境にWells管理の鍵で残り、検知はAnthropicが担う。「この分担こそが、フロンティアモデルを安全に業務投入できる条件だ」。

Anthropic直接利用でも、AWS・Google Cloud・Microsoft Azure経由でも同等の制御が効きます。Claude Code、Claude Enterprise、Claude Platform、Amazon Bedrock、Google Agent Platform、Microsoft Foundryに対応予定。モデルの挙動・API料金・レート制限は変わりません。

企業のAI活用にとっての意味

三つあります。

1. 「ログを残さない」は、もう最善解ではない。 社内でAI利用ルールを決めるとき、多くの企業が「履歴を残さない設定にすれば安全」と考えます。しかしAIに権限を持たせて業務を任せる段階では、誰が何をさせたかを後から追える状態のほうが安全になります。監査対応も、事故が起きたときの説明責任も、ログがなければ果たせません。論点は「残すか消すか」ではなく「どこに、誰の鍵で残すか」に移りました。

2. 判断すべき問いが具体化された。 ARCのCEOは、大手銀行8社がAnthropicと詰めた論点をこう整理しています——誰がデータを持つのか。誰が鍵を持つのか。自動レビューは何を見て何を見ないのか。人間が中身を見てよいのはどんな条件のときか。 これはそのまま、自社でAIツールを選定・運用するときのチェックリストになります。契約書のポリシー文言ではなく、アーキテクチャのレベルで確認すべき4項目です。

3. 「規制業種だから使えない」の言い訳が減っていく。 KPMGのパートナーは「これらのセーフガードによって、これまで適用できなかった規制領域・機密性の高い業務にもAIを使えるようになる」と述べています。これまで法務・コンプライアンスの壁で止まっていた領域が、順次開いていくということです。裏を返せば、「うちは規制があるから」で先送りしてきた企業ほど、前提条件が変わったことに気づかず出遅れるリスクがある。自社の「できない理由」が今も有効かどうか、棚卸しする時期に来ています。

AIの利用ログを「どこに、誰の鍵で残すか」。規制業種でも通る生成AIのガバナンス設計から、レベルゼロが伴走します。

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